| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB3-138 (Poster presentation)
一次生産が栄養塩によって制限されるという考えは、湖沼生態系おいて定着したパラダイムである(Carpenter 2008 PNAS, Sterner 2008 Hydrobiol)。一方、貧栄養湖における一次生産は光強度によって制限されるという研究も発表されている(Karlsson et al. 2009 Nature)。南極大陸に点在する湖沼は貧栄養でありながら、湖底一面が豊かな光合成生物マットで覆われている。本研究では、貧栄養湖における一次生産の規定要因を明らかにすること目指した。南極の17個の貧栄養淡水湖において、水中の温度と光スペクトルを測定し、湖水と湖底マット間隙水の無機栄養塩、光合成速度の指標として湖底マットの炭素安定同位体比(δ13C)を分析した。また、光スペクトルは日時・天候によって変化するため、湖水の光の消散係数を算出し、快晴の夏至・正午の湖面の入射光スペクトルを基準値として、湖底到達光を補正した。δ13Cと湖水のリン酸・DIN濃度(アンモニウム、硝酸、亜硝酸)、湖底マット間隙水のリン酸・DIN濃度、および、水温との間には相関が見られなかった。しかし、δ13Cと光合成有効放射(400-700nm)との間には負の相関(r=-0.63)があり、UV(300-400nm)との間にはより強い負の相関(r=-0.84)が見られた。また、UVと各湖沼の集水域面積との間には負の相関(r=-0.91)があった。水中の溶存有機炭素(DOC)がUVを吸収すると言われているため、集水域の広い湖沼ほど陸上からのDOC流入量が大きく、UVが減衰しやすいと考えられる。本研究から、貧栄養湖の一次生産は栄養塩ではなく光、また、これまで言われてきた光エネルギーだけでなく、光の質によって規定されることが明らかになった。