| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-147 (Poster presentation)

南極昭和基地周辺ラングホブデ露岩域における植生および土壌中の炭素・窒素量

*内田雅己(極地研), 田邊優貴子(早稲田大), 大園京司(京都大), 工藤栄(極地研)

南極大陸は陸地面積の99.7%ほどが氷床で覆われており、陸地が露出しているのは、主に沿岸域である。その沿岸域においても、厳しい環境条件のためか維管束植物は生育せず、蘚苔類、地衣類、藻類などがパッチ状に地表面を覆っており、一見すると砂漠のような景観となっている。本研究では、そのような環境における陸上生態系での物質循環を明らかにする初期段階として、生態系の発達と炭素・窒素の蓄積状況の関係を調査した。

調査地は南極昭和基地周辺のラングホブデと呼ばれる露岩域にある雪鳥沢とした。雪鳥沢は、夏期、水が集積して流れを形成しているため、他の地域と比較すると植物が多い。また、中流域にはユキドリが営巣している。2009年12月~2010年2月、この沢の上流域、から下流域にかけて調査地を6点設定し、方形区を設置して植物と土壌を採取した。採取したサンプルは日本に持ち帰ったのち、乾燥重量を測定するとともに、炭素および窒素含有率を測定した。

植生の認められない土壌では、炭素濃度は1%未満、窒素濃度は0.1%未満と著しく低い値を示した。一方、植生の認められる場所では、地表面付近で40%前後の炭素濃度および1%前後の窒素濃度が認められたが、有機物層直下の鉱質土層になると、炭素・窒素濃度とも著しく低下する傾向が認められた。上流に行くほど、生態系の成立年代は新しいが、同一の植生タイプにおいて土壌中の炭素・窒素蓄積量と採取地点との間にある一定の関係は認められなかった。このことから、本調査地は流水による植生・土壌の流出や暴風雪による土砂の堆積等の攪乱の影響を受け、植生や土壌が長期的に安定して維持されている可能性は低いことが考えられた。


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