| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
シンポジウム S02-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
ヒトゲノムの解読終了以降、細胞生物学は大きく変化した。ゲノム情報をもとにしたさまざまな実験・計測・情報解析ツールやデータベースが開発され、研究の対象もひとつの遺伝子ではなく数万の遺伝子の相互作用に変化した。このようなゲノムスケールの研究をあらわす“オミクス”という造語がある。これは、ゲノミクス(genomics)、トランスクリプトミクス(transcriptomics)、プロテオミクス(proteomics)、メタボロミクス(metabolomics)、フェノミクス(phenomics)という、それぞれの末尾をとったもので、ゲノム、転写物、タンパク質、代謝物、個体の表現型を網羅的に調べる方法論のことである。最新の細胞生物学では、これらの膨大な実験データを取得し、情報学的に統合し、そこから細胞の性質を表わす遺伝子や病気の原因遺伝子を見出す、といったデータドリブンの研究が盛んである。一方で、このような細胞のビッグデータから、まったくの仮説抜きで新たな知識を発見することは実際にはとても難しい。また、遺伝子、細胞、個体レベルと、大きさと時間軸の異なるデータを統合することはそれ以上に難しい。そこで私たちは対象物に摂動や遺伝子変異を与えた条件で、時系列データを取得し、そこから数理モデルを用いて遺伝子間の制御を同定するというアプローチを用いて、実験データの統合と知識発見を行おうとしている。こうすることによって、細胞のダイナミクスと遺伝子制御の関係が明らかになることがあるからである。細胞研究と生態学とはかけ離れているように思われるが、それぞれの相互作用や制御の考え方に関しては、個体分子に関わらず、ある種の共通点があるように思う。そういった点などを中心に討論できれば幸いである。