| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
シンポジウム S04-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
化学物質の中でヒトや生態系にとって厄介なものは、毒性が強く、生体内に容易に侵入し、そこに長期間とどまる物質であろう。こうした性質をもつ化学物質の代表に、PCBs(ポリ塩化ビフェニール)やダイオキシン類などPOPs(残留性有機汚染物質)と呼ばれる生物蓄積性の有害物質がある。私がPOPsの汚染研究を開始したのは1972年のことで、テーマは「瀬戸内海のPOPs汚染に関する研究」であった。当時の汚染実態はきわめて深刻化していたが、不思議なことに瀬戸内海に残存しているPOPs量は使用量に比べ予想外に少ないことに気がついた。この疑問は、「大気経由でPOPsが広域拡散したのではないか」という仮説を生み、地球汚染を実証する研究へと進展した。この研究の中で、ダイオキシン類やDDTは局在性が強く地域汚染型の物質であるが、PCBsや殺虫剤のHCHsは長距離輸送されやすい地球汚染型の物質であることを、大気や水質の調査だけでなく生物を指標とした研究でも明らかにした。また冷水域は、POPsの最終的な到達点となることを示唆した。さらに、POPsは食物連鎖を通して生物濃縮され高次の生物種ほど汚染が著しいこと、とくに海洋生態系の頂点に位置する鯨類などの水棲生物は、体内にきわめて高い濃度のPOPsを蓄積していることが認められた。この要因として、この種の動物の体内に有害物質の貯蔵庫(皮下脂肪)が存在すること、授乳による母子間移行量が大きいこと、有害物質を分解する酵素系が一部欠落していること、などが判明した。また、薬物代謝酵素等に注目した研究により、海棲哺乳動物はPOPs(親化合物)のリスクが高い生物種(ハイリスクアニマル)であること、一方陸棲の哺乳動物はPOPs代謝物のハイリスクアニマルであることを示唆した。以上の研究成果から、生態系本位の環境観・社会観を醸成する施策が必要なことを提言した。