| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
シンポジウム S04-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
化学物質の生態リスク評価に必要な毒性情報は,生物個体の生存や繁殖等への影響を評価する室内毒性試験から得られている。限られた時間内に観察される単一の生物種への影響を評価する室内試験は比較的安価で一定の再現性を持つ一方で,その結果のみから野外の個体群や群集への影響を精度良く予測することは難しい。そのため,この不確実性によってリスクが過大または過小評価される可能性がある。
本研究では,水生生物の保全を目的とした水質環境基準が設定された亜鉛に着目し(淡水域の基準値:30 μg/L),基準値前後での野外影響を明らかにするために,休廃止鉱山周辺の河川を対象として亜鉛濃度が底生動物群集に及ぼす影響を調査した。その結果,基準値の2~3倍程度の亜鉛濃度は底生動物群集の種数に顕著な影響を及ぼさないことが示唆された。また,既往の河川調査データを用いた解析から,有機汚濁が進行した河川では底生動物の生息が汚濁によって大きく制限されており,そのような河川で亜鉛濃度だけを低減しても生物相の回復は見込まれないことが示唆された。
野外調査も万能ではないが,慎重な調査計画や適切な統計手法を用いることで,室内試験結果を基にする生態リスク評価結果の信頼性を評価・補完できる情報を提供できる。また,野外の生物群集には複数の物理・化学・生物学的要因が複合的に影響を与えており,その応答をモニタリングしていくことは効果的な管理を実施していく上で重要な役割を担うはずである。発表では,このような利点を持つ野外調査を生態リスク評価や管理に活かしていくために,今後必要な研究などについても議論したい。