| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S14-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

グリーンアノールの生物学的特性に基づく防除戦略開発

戸田光彦(自然研センター)

特定外来生物グリーンアノールは北アメリカを原産地とする爬虫類で、小笠原諸島に定着して捕食により昆虫群集に多大な影響を与えてきた。本種が定着した島嶼では、未侵入地域への拡散防止(父島)及びアノール排除を通した自然再生(母島)を目的とした防除事業が進められてきた。

これまでの防除に用いられてきた粘着トラップは、高密度のアノールを効率的に減らすことができるものの、低密度の個体群を根絶させるには適していないことが判明しつつある。そのため、トラップによらない新たな防除技術の確立が急務となっており、本研究では薬剤に着目して基礎的事項を整理した。薬剤のスクリーニングにおいてはピレスロイド系の殺虫剤が効果的であることが確認され、経口投与、皮膚への塗布、噴霧機を用いた散布、燻蒸処理のいずれにおいても致死効果が認められた。噴霧や燻蒸処理については昼間よりも夜間に効果が高まることが判明し、これは逃避行動が抑制されるためと考えられた。

野外における応用として、アノールが潜む落葉の山をポリエチレン製のシートで包み、薬剤噴霧と燻煙による効果を検証した。約2m3の空間に対して、フェンプロパトリン剤の噴霧では4割程度、燻煙剤(バルサン)の使用では7割程度の致死効果が認められた。これらの技術は、野外で落葉落枝に潜むアノールの防除、ならびに資材への混入を避けるための検疫に適用できると考えられた。ただし広域的な防除のためには薬剤をより効率的に投与することが不可欠であり、アノール用ベイト剤の開発等が必要になる。

2013年3月22日、父島の北部に位置する兄島にアノールが侵入、定着していることが初めて確認された。現在、行政機関、NPO、研究者、調査実施機関等の連携により防除が進められているが、この現場において新たな防除技術の確立が強く求められており、化学的防除手法の開発をさらに急いで進めることが必要となっている。


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