| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) A1-21 (Oral presentation)

ヌマムツとカワムツの遺伝的集団構造

*松岡悠,平井規央,石井実(大阪府大院・生命)

淡水魚のヌマムツCandidia sieboldiiとカワムツC. temminckii(コイ科)は,従来カワムツA,B型として扱われてきたが,2003年に別種とされた.ヌマムツは日本固有種で10府県においてレッドリスト種として扱われる一方,カワムツはアジアに広く分布する普通種である.本研究では異なる分布パターンをもつ近縁2種について,遺伝的集団構造を調査した.

静岡県以西の本州,四国,九州北部の河川で採集を行い,30カ所330個体のヌマムツ,37カ所107個体のカワムツを遺伝子解析に供した.ミトコンドリアDNAのcyt b領域(1,152bp)を決定して系統樹を作成したところ,ヌマムツはⅰ:東海,ⅱ:近畿・中国・四国・九州北東部,ⅲ:九州北西部,カワムツはⅠ:東海,Ⅱ:近畿,中国・四国の一部,Ⅲ:中国・四国・九州の3系統が確認され,系統ⅰ-ⅱ間とⅠ-Ⅱ間の地理的な境界は一致した.しかし,これらの塩基配列の相違はヌマムツが平均0.72%に対して,カワムツは7.12%と約10倍であった.この結果にコイ科の分子時計(1.52%/Myr)を用いて各系統の分岐年代を推定した.ヌマムツの系統ⅰ-ⅱ間の分岐年代は30~70万年前と推定されて,境界とする鈴鹿山脈(100~150万年前に隆起)が隆起した年代と比較的近かったが,カワムツは435~490万年前と大きくはずれていた.またヌマムツの系統ⅱ-ⅲ間は三郡山地(50万年前に分断)を境界としており,分岐年代は55~100万年前と推定されたため,概ね一致した.これらのことから,ヌマムツは従来,西日本に広く分布したが,分断により3系統が分化したと考えられる.一方,カワムツ3系統の分布成立過程は不明であり,今後は近縁種や大陸側の遺伝子情報も含めた分析が必要である.


日本生態学会