| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) F2-27 (Oral presentation)
日本海側の山地にはブナの優占林がみられ、その要因の一つとしてブナの積雪環境に対する耐性の大きさが挙げられる。しかし、ブナがどのような積雪環境下まで生育可能であるかは完全に理解されているわけではない。そこで我々は、ブナの幹が破壊されずに成長できる積雪環境の解明を目標に、積雪期にブナの幹が受ける変形ストレスを調査した。
調査では、積雪量や雪の移動性が異なると予測される複数の地点において多様なサイズのブナの幹にひずみゲージを貼りつけ、積雪期間中の幹の変形量を計測し続けた。また、個体ごとの積雪深や、幹の曲率、直径、斜面傾斜角度を計測した。
雪が幹に与える影響は、積雪期の初期から大きく、幹の変形はこの時期にほとんど最大に達した。このことは、幹の破壊や根曲りの形成を理解する上で重要な知見であるといえる。直立した直径20cm以上の幹にはほとんど変形が見られなかったが、直径10cm以内の幹では雪中でも立ったままで破壊の危険性が大きくなっている個体と、地面に倒伏し比較的変形は小さい個体とが存在した。これらの結果からブナ幹の成長過程は次のように考察される。ブナは幹の直径増大と共に地面への倒伏が困難になり、おそらく直径5-8cmのころ最も破壊の危険性が大きくなる。そのまま無事に肥大成長できれば以後は雪圧に対抗できるようになり直立した幹形態を維持していく。一方、雪の影響が大きすぎる場所では、一度以上の幹破壊を経て夏でも大きく湾曲した幹が形成されていき、地面に匍匐した形態から抜け出せない。比較的寡雪の急斜面や積雪深が大きくても平坦な場所などでは直立形態で成長できると考えられるが、今後積雪深の調査などを合わせて議論したい。