| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) F2-34 (Oral presentation)
地球規模の気候変動は、熱帯雨林樹木の分布範囲や成長速度に大きな影響を与えている可能性がある。長期的な樹木の成長量データは、過去の環境変動に対する樹木の応答を知る上で重要な手がかりとなるが、気候に季節性の無い熱帯雨林では樹木は明瞭な年輪を形成しない。そのため、これまで毎木調査以外での成長量解析は困難とされてきた。本研究は、冷戦時代の大気核実験の影響による大気中の14C濃度の急激な変化を利用し、材に含まれる14C濃度から過去の成長量を特定する新しい手法を用いて、熱帯雨林樹木の過去50年の成長量変化を調べた。また、材の炭素安定同位体比を利用して、過去50年間の水利用効率の変化についても検討した。
マレーシア半島部のパソ森林保護区及びボルネオ島のランビル国立公園において、フタバガキ科を中心とした6科16種33個体の成木を調査対象とし、各個体の胸高位置から木部コア3本を採取した。過去の幹周囲長のデータから、1960年代以降に形成された各個体の木部コアの範囲をおおよそ推定し、その中の4~12箇所について14C濃度を測定した。また、材と大気中の炭素安定同位体比の関係から、水利用効率の経年変化を調べた。
その結果、各樹種の成長量には違いが見られたものの、いずれの樹種も過去50年で成長量に明瞭な変化は確認されなかった。一方、水利用効率はパソ、ランビルの個体とも増加傾向を示した。つまり、熱帯雨林の林冠構成種は、過去50年間で成長量に大きな変化は現れていないものの、乾燥ストレスは着実に増大傾向にあると言える。そのため、今後の更なる高温・乾燥化は樹木の成長にも影響を与える可能性があると考えられた。