| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) J1-22 (Oral presentation)
有性生殖を行なう種のオスとメスにはしばしば性的対立が生じるため、資源利用様式が性に応じて異なることが多い。この違いによって、その種をとりまく生物群集に与える影響が性に応じて異なる可能性がある。生物群集を構成する種の多くに性があるので、性に依存した種間相互作用は生物群集に広くみられると予想される。しかしこれまでは、生物群集における性の役割はほとんど考慮されてこなかった。そこで著者らは、訪花昆虫群集を対象にして、訪花昆虫のネットワーク構造が性に応じて変わるかどうかを調べた。調査の対象にしたのは、京都大学博物館に収蔵されている訪花昆虫標本である。利用した標本は1984年から1987年にかけて芦生、貴船、京都大学周辺の3地点で採集されたもので、採集時に各個体が訪花していた植物種が記録されている。これらのうち、性を同定できた5212個体を解析に用いた。訪花昆虫のオスとメスのそれぞれについて採集地および採集年ごとのネットワークに分割し、そのネットワーク構造をオスとメスで比較した。その結果、訪花昆虫のオスのネットワークはメスのそれに比べて入れ子構造が有意に弱かった。さらに、オスのネットワークではメスのそれに比べて、昆虫種ごとの植物利用頻度の偏りが小さいこと、1種の昆虫だけが訪花する植物種が多いことがわかった。こうしたオスとメスのネットワーク構造の違いは、社会性の有無や送粉者の分類群にかかわらず認められた。訪花昆虫のオスは花粉や花蜜を獲得することだけでなく、同種のメス(交配相手)を探索するために訪花するので、このような違いが生じたと考えられる。