| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) K1-18 (Oral presentation)
多くの動物の外部形態は,左右対称である.しかしながら,昆虫類の交尾器形態においては左右非対称な構造をもつものも多く見られる.カマキリ類では,雄交尾器に顕著な左右非対称性がみられ,左側がより複雑に発達し,複数の鉤状の突起を有している.一方で,雌の交尾器は左右対称である.カマキリ類では,交尾時に,雄が雌の背に乗り,雄は腹部を雌の腹部のどちらか一方の側面を通して下方に曲げ,交尾器を接続する.本研究では,この雄における側方化した交尾態勢と左右非対称な雄交尾器の機能との関係について検討した.まず,日本産カマキリ類について,交尾時に雄が腹部を雌の腹部の左右どちら側を通して交尾に至るかを調べたところ,検視したすべての種において,雄は腹部を雌の右側に通した.これらの種では,交尾器形態もすべて左右非対称で,構造的には左側がより発達しているという点で共通していた.次に,雄交尾器の鉤状突起の機能を明らかにするために,(i)各突起の切除実験,(ii)突起に微細蛍光ビーズを塗布した雄個体を用いた交尾実験,(iii)雌雄交尾器の模式的3Dモデルを用いた交尾の再現を行った.その結果,オスの交尾器にある複数の突起は,交尾の際に雌の隠された生殖口をこじ開け,交尾器を接続するための“てこ”のように用いられている可能性が示唆された.カマキリ類の雌の生殖口は,交尾中を除き,腹板の末端節が生殖弁を覆うことで固く閉ざされている.これに加え,オオカマキリでは,交尾時に雌が腹部の末端を持ち上げ交尾を拒絶する行動がみられた。以上から,カマキリ類の雄における交尾態勢の側方化とそれに応じた交尾器形態の左右非対称化は,雌の形態的・行動的交尾拒絶への対抗適応の結果である可能性が考えられた.