| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(口頭発表) K1-22 (Oral presentation)
沿岸性小型ヒゲクジラ類であるニタリクジラBalaenoptera edeniは、ナガスクジラ科に属している。本科の全ての種は、餌パッチに向かって加速し捕食する突進型の採餌様式を持つことが知られている。ナガスクジラ科において、突進型以外の採餌様式の研究報告例はこれまでに無かった。しかし、タイ国のタイ湾奥部では、ニタリクジラが水面に頭を垂直に出した後、口を大きく開け、そのまま静止し、餌生物が口内に入ってくるのを待つ、待ち伏せ型の採餌様式を取ることが目撃されている。タイ湾のニタリクジラはどのように待ち伏せをし、なぜそのような採餌様式をとるのだろうか。本研究では目視観察および動物装着型記録計を用いて本種の採餌行動を観察した。
2014年10月-11月、タイ湾奥部のニタリクジラを対象とした野外調査を実施した。クジラが水面に頭を出してから水中に入るまでの時間を待ち伏せ型採餌の継続時間と定義し、目視によりこれを計測した。別途、遊泳速度、加速度、深度、映像を記録できる動物装着型記録計を吸盤で装着し、自然脱落後に回収した。
目視観察により、合計58回の待ち伏せ型採餌の記録を得た。待ち伏せ型採餌の平均時間は14.5秒間、最大時間は32秒間であった。1頭のクジラに装着した記録計から、44分間の行動・映像データを取得した。同時に行った目視観察によりクジラが待ち伏せ採餌をしていることが確認できている間、記録計に計測された遊泳速度の記録は0となり潜水深度は一定の値であった。またその時の加速度と映像の記録から、クジラは巡航遊泳しているとき(0.7-1.0 Hz)よりも尾ビレを速く(1.5 Hz)動かし、立ち泳ぎをしていることが明らかとなった。タイ湾のニタリクジラは、餌生物が物や物陰に集まってくる習性を利用し、突進型よりもエネルギーコストの小さいと考えられる待ち伏せ型の採餌をしていたことが示唆された。