| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-032 (Poster presentation)
変動環境下において、広域的に生育が困難な地域内で局所的な個体群維持を可能とする微環境(microrefugia)の重要性が近年指摘されている。日本の高山帯に生育する高山植物には氷期の残存個体群も含まれると考えられているが、高山帯から局所的に隔離された低標高の風穴地も、高山植物のmicrorefugiaである可能性がある。風穴地の小規模個体群では、その維持機構が遺伝構造に強く反映されていると考えられる。本研究では高山植物コケモモを対象として、風穴地と高山帯を含む地域において集団遺伝構造を明らかにした。そして、風穴地や高山帯のmicrorefugiaとしての可能性と種個体群の保全について考察した。
北海道遠軽町の低標高風穴地8地点と高山帯5地点から葉を採取した。遺伝子解析には7組のSSRマーカーを用いた。
風穴地では数十mのクローンが存在した。風穴地は高山帯より遺伝的多様性が低かったが、特有の対立遺伝子が見られ、長期的に個体群が維持されている可能性が示唆された。これは風穴地がmicrorefugiaであるという仮説を支持する。また、風穴地は高山帯に比べ個体群間の遺伝子流動が少なかった。風穴地では、長期間生存するクローン個体の存在や、稀に起こる遺伝子流動が個体群維持の重要な要因と考えられる。一方、高山帯では頻繁な遺伝子流動により個体群が維持されていると考えられる。
風穴地や高山帯では固有かつ多様な遺伝子型が見られるため、温暖化で分布の縮小が懸念される中、遺伝的多様性の保全には地域全体での保全が重要となる。長期的な視点では、そのような地域の局所個体群は重要な遺伝子供給源となるだろう。