| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-045 (Poster presentation)

遺伝子に刻まれたビロウの歴史 ―九州・四国に点在するビロウ集団はいかにして成立したのか―

*梶田梨絵,山田俊弘,奥田敏統(広島大・総科),近藤俊明(広島大・国際研)

ビロウ(Livistona chinensis var. subglobosa)は,琉球・薩南諸島に分布するヤシ科植物であるが,九州北部や四国南西部など,分布の中心から遠く離れた島嶼部にも隔離的に分布している。こうした隔離分布について,遺存種仮説や海流散布仮説が提唱されているが,ビロウが自生しない本州においてもビロウは宮中や神社の祭祀において重要な役割を果たしてきたことから,古代琉球とヤマトの文化交流の結果,九州・四国に持ち込まれ定着したとする説もある。本研究では分布域全域を包含する23集団を対象にSSR遺伝子座13座の多型情報に基づく解析を行い,隔離ビロウ集団の起源解明を試みた。

STRUCTURE解析の結果,九州北部の一部の隔離集団を除く20集団は,生物地理区の境界でもある渡瀬線付近を境に,奄美諸島以南とトカラ列島以北(隔離集団を含む)で異なる2つのクラスターに振り分けられた。奄美諸島以南では高い遺伝的多様性と集団固有のアリルが観察されたのに対し,トカラ列島以北では多様性が低く,特定のアリルのみが高い頻度で観察された。これは奄美諸島以南の集団が温暖な気候帯において安定的に存在してきたのに対し,トカラ列島以北の集団は最終氷期以降など比較的最近の分布拡大によって形成されたことを示唆するもので,両地域ともに地理的距離と遺伝的隔離の間に相関がなかったことを考慮すると,こうした分布拡大は黒潮による海流散布によってもたらされたと考えられる。

一方,分布域北端に位置する九州北部の隔離集団については,STRUCTURE解析におけるクラスター数に依らず常に琉球諸島の集団と同じクラスターに振り分けられた。こうした傾向は海流散布では説明がつかず,九州北部の隔離集団が社叢林内に存在することからも人為起源である可能性が高いと考えられた。


日本生態学会