| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-059 (Poster presentation)

栽培実験に基づくオオバタネツケバナ渓畔・潮汐集団の適応戦略

*曽我江里, 工藤洋(京大・生態研)

新たな環境への適応は、種内集団間の分化や種分化を介して生物多様性に寄与している。これまで様々な環境の勾配に沿った生態的分化が報告されており、分子生態学分野ではアブラナ科植物を用いて、各環境適応の実証的研究が行われ、進化や適応の分子レベルでの理解が進んできている。

オオバタネツケバナ(Cardamine scutata)は一般的に、渓畔に生育し複葉を形成している。ところが木曽川河口域のオオバタネツケバナ(潮汐集団)は、潮汐周期(12.4 時間)で冠水を繰り返す環境に生育し、単葉化している(芹沢ら, 2002)。潮汐集団は渓畔とは非常に大きく異なる潮汐環境に、どのような遺伝的基盤を持つことで適応したのだろうか。本研究では、種内変異を用いて、潮汐周期で冠水する環境への適応を遺伝的に明らかにする。

人工気象器を用いた栽培実験で、集団間の遺伝的差異を検出した。潮汐集団は遺伝的に、1)単葉で、2)葉が長く、3)側茎を上部に形成し、4)茎の伸長が速く、5)葉の展開幅が小さかった。形質2, 3, 4, 5は、冠水から回避する戦術と考えられる。また、至近要因の一つは、オーキシンの濃度勾配の変異と推測でき、副産物として単葉化が起こったのではないかと予想している。

本大会ではさらに、冠水実験によって新たに確認された集団間差異、また、集団間差異を生じさせていると考えられる遺伝子候補について、定量PCRで集団間比較を行った結果も合わせて報告予定である。


日本生態学会