| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-115 (Poster presentation)
葉の形質の変異は同化効率や防衛などを通して植物の適応度に影響するだけでなく、植食者の選好性や生存過程にも影響する。一方、植物の葉の形質は食害や葉齢などの外的および内的な要因によって大きく変化することがわかってきた。近年、植物が食害後の再成長により若い葉を生産し、そのことが植食者の個体および個体群に与える影響が注目されている。しかし、これまでの研究では食害後の再成長によりもたらされる、植食者の選好性や生存過程に関わる形質変化が、葉齢によるものか食害に対する反応によるものなのかは検討されてこなかった。そこで我々は、防衛物質(アリストロキア酸)を含むウマノスズクサの地上部を人為的に切除することで、1. 再成長した葉の形質(アリストロキア酸濃度、C/N比、水分含有率)が変化するか、2. もし変化するならそれは葉齢によるものか切除の影響なのかを検証した。同一葉齢の切除区と対照区の葉を比較したところ、切除区の水分含有率は対照区に比べて高くなったが、アリストロキア酸とC/N比には切除処理の効果はみられなかった。次に同一処理において葉齢を変えて比較したところ、葉齢が進むほどC/N比は高くなり、水分含有率は低くなる傾向があった。しかし、アリストロキア酸の濃度に対する葉齢の効果はみられなかった。葉あたりのアリストロキア酸量および水分量と葉の重さの関係をそれぞれ解析したところ、アリストロキア酸量と葉の重さの回帰直線の傾きは葉齢によって変化しなかったが、水分量と葉の重さとの傾きは葉齢が進むほど小さくなった。このことが、葉齢と水分含有率との負の関係をもたらしていると考えられた。今回の結果は、ウマノスズクサの再成長は葉の若齢化(水分含有率の増加とC/N比の減少)と切除に対する反応(水分含有率の増加)の双方により、植食者にとって質の良い葉をもたらすことを示している。