| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-125 (Poster presentation)
生物間の相利共生は、両者が互いに利益を享受する相互作用である。しかし、共生相手に利益を与えることは、しばしばコストを伴うため、理論的には相手から得る利益を最大化する一方、コストを縮小する方向へ選択が働くと予測されている。しかしながら、自然界では多くの相利共生系が長い進化的時間スケールで存続しており、利益とコストのバランスを保つ生態学的要因を解明することは相利共生系の進化を理解する上で不可欠である。
植物と種子食性の送粉者が互いに強く依存しあった絶対送粉共生系に、コミカンソウ科オオシマコバンノキとハナホソガ属の一種の関係がある。送粉者ハナホソガは雌花に授粉後、その子房とがくの隙間に産卵する。孵化した幼虫は果実内で一部の種子のみを食べ、成熟する。ハナホソガが一つの花により多くの卵を産みつけ、果実内の幼虫数が増えると、種子食害数が増え、植物の利益とコストのバランスが崩れる恐れがある。我々はこの植物で、果実基部に柄のような構造を発達させる個体があり、その柄の長さに個体間で大きな変異があることを見つけた。柄が伸長すると、孵化前の卵が乾燥しやすくなったり、幼虫が種子に到達するために柄の中を通り抜けなければならなくなるため、柄の伸長はハナホソガの卵や幼虫の死亡率を高めている可能性がある。オオシマコバンノキの果実の柄の伸長とハナホソガの生存率の関係を調べたところ、柄が長いほど果実内のハナホソガ幼虫数が少ないことがわかった。また、柄の長さはハナホソガの産卵の有無や産卵回数、あるいは株サイズに関わらず、個体ごとに決まっていた。さらに、オオシマコバンノキの近縁種では果実に柄のような構造が見られず、それらの送粉者であるハナホソガは子房内部に卵を産み込むことから、果実の柄はハナホソガの産卵様式の変化に対抗して、植物側の防御形質として進化したのかもしれない。