| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-146 (Poster presentation)
山岳地域では、標高の上下で環境が大きく変化する。そのため、一つの植物集団内においても、標高差があれば、環境差に対して適応が生じることが考えられる。
本研究では中部山岳域に分布するヤチトリカブトとその送粉者に着目し、標高間でヤチトリカブトの花形質に変異があるか、またそれが送粉者相や訪花頻度の標高間変異と関係しているかを調べた。
上高地岳沢の標高1970m、2282m、2572mの3地点(連続した高茎草原)において、ヤチトリカブトの花形質を測定したところ、高標高ほど送粉者の口吻長に対応すると考えられる頂萼片長が短くなり、送粉者の着地位置である下萼片長と、送粉者のもぐり込みを制限する側萼片間幅については各標高地点間で差が認められなかった。
送粉者については、全ての調査地点において大型のナガマルハナバチが主に訪花した。また訪花頻度は2572mでは低く、2282mと2572mでは小型のヒメマルハナバチ、1970mでは中型のミヤママルハナバチの訪花がそれぞれ少数みられた。
ヤチトリカブトの柱頭に他家花粉を付加する処理を行った結果、いずれの標高でも付加処理区で結実率はコントロール区に比べて高くなったが、両区ともに結実率は10%〜30%と低く、両区の間で結実率に有意な差は認められなかった。本実験の実施中に低温と降霜がみられたことが両区の結実率の低下につながった可能性がある。
以上の結果から、直線距離で2km以内という狭い範囲で、送粉者の口吻長への適応に関与すると考えられる頂萼片長にのみ変異があることが明らかになった。しかしこれに対する送粉者サイズの違いの影響は検出できなかった。今後は送粉者相の季節的な変化や年次変動も視野に入れた調査を行うとともに、他の高茎草原でも同様の標高傾度に沿った花形質の変異が生じているかについて確認する必要がある。