| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-186 (Poster presentation)

高緯度北極の湿原生態系における溶存有機物の特性

*園田碧(神戸大・院・農),藤嶽暢英(神戸大・院・農),廣田充(筑波大・院・生命環境),内田雅己(極地研),中坪孝之(広島大・院・生物圏)

北極土壌は巨大な炭素貯留庫である一方で,気候変動の影響を受けやすく炭素損失が大きい可能性がある。そこで,スヴァールバル諸島における氷河後退が進む地域での土壌炭素の分布や植生,炭素循環に関する研究が行われ,中坪らによってその現状が明らかにされてきた。しかし,溶存有機物(DOM)中の難分解性成分であるフミン物質については,測定が容易でないために実態が明らかでなく,溶存有機物の特性は不明である。そこで、我々は北極の湿地帯における溶存有機物の特性について調査した。ここでは、DOMとフミン物質の濃度分布について得られた結果を報告する。

調査はスヴァールバル諸島の湿原で2014年7月に実施した。水試料は10地点で湿原地域に水が流入する崖から沿岸海域までの各地点で採取した。ECとpH値は各地点で測定し、凍結して日本へ持ち帰ったのち,Tsudaら(2012)の方法に準じてDOMならびにフミン物質の炭素濃度を測定し,ICP-MS分析装置を用いて各種溶存元素濃度を測定した。

湿地内を流れる河川は下流に向かうほどDOM中のフミン物質割合が増加する傾向が見られた。これは湿原内から溶出する炭素はより難分解性のDOMとして海へと流出することを反映していると考えられる。さらに,融雪期から高温期に向かうほどDOM濃度は減少した(2.4→1.4 mgC L-1)が,その一方で,難分解性成分であるフミン物質の割合は増加した(42→60%)。高温期に向かうほど,より深層部の凍結ピートが溶融して河川DOMの性状に変化をもたらし,難分解性成分が海に流出している可能性が示唆された。


日本生態学会