| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-193 (Poster presentation)

冷温帯シバ草原における温暖化操作実験 -根系動態への影響-

*田波健太, 墨野倉伸彦, 鈴木真祐子 (早稲田大・院・先進理工), 友常満利 (早稲田大・理工総研), 吉竹晋平 (岐阜大・流圏セ), 小泉博 (早稲田大・教育)

草原生態系は陸域面積の約4割を占めており、炭素収支の面においても高い炭素蓄積能を有している。また、土壌への炭素蓄積の割合が大きく、地下部に多くの植物体を発達させている。したがって、草原生態系において根系の動態を調べること、温暖化に対する根系の応答を評価することは環境変動により生じる炭素収支の変化を予測する上で重要である。しかし、根系の動態を非破壊的に観察することは難しく、特に草原での研究例は少ない。本研究は草原生態系において根系を非破壊的に観察し、温暖化に対する動態の変化を明らかにすることを目的とした。

調査は2014年5月から11月まで岐阜県乗鞍岳の冷温帯シバ草原で行った。地表から1.2 mの高さに赤外線ヒーターを設置した昇温区を用意し、昇温区における地下2 cmの地温が対照区よりも2℃上昇するように制御した。根系の動態を明らかにするために各区画の端に観察範囲(15 cm×15 cm)が開閉するアクリル板を垂直に挿入し、月に一回の観察時には板の手前側を掘り起こして観察部を開き、土壌断面をデジタルカメラで直接撮影した。撮影した画像のうち根系のみをトレースし、観察範囲内の全ピクセル数と根系を構成するピクセル数の割合より根系現存量を地下茎と細根に分けて評価した。また根系画像から細根のターンオーバーを測定した。

昇温操作の有無により根系現存量に有意な差は確認されなかったものの、細根量は夏以降の昇温区で高い傾向を示した。また、昇温操作により、細根のターンオーバーは有意に増加した。これらのことから、温暖化は根系の生育時期、土壌への有機物供給を介して草原生態系の物質循環に影響を及ぼしている可能性が示唆された。


日本生態学会