| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-197 (Poster presentation)

屋久島の森林の土壌窒素無機化速度:土壌―植生相互作用の指標として

*向井真那(京大・農・森林生態),相場慎一郎(鹿大・理工),北山兼弘(京大・農・森林生態)

屋久島では標高傾度に沿い、暖温帯常緑広葉樹林から冷温帯常緑針葉樹林に至る植生の垂直分布が見られる。隣接する鬼界カルデラの7300年前の噴火の影響でアカホヤ火山灰が厚く堆積し、当時の植生は破壊的な影響を受けたと推測される。現在の植生は温度や降水量などの気候の影響に加え、土壌と植生のフィードバック的な相互作用が繰り返され分化した結果であろう。この仮説を野外観察で直接証明するのは難しいが、植生が土壌に与える影響は、実験的な証明が可能だと考える。植物に必須元素である土壌中の窒素の生態系内部循環に着目し、植生から土壌への影響を評価した。

異なる7標高(170 m~1550 m)の森林調査区から採集した表層土壌(10cm深)をそれぞれ4つの温度条件(15、20、25、30℃)で10日間培養した結果、各温度で元の標高の増加に伴い純無機化速度が線的に減少した。純無機化の内的要因である土壌有機物の質と微生物相は標高(温度)を介して内在的に決定され、植生が土壌有機物の質に強い影響を及ぼすことが示唆された。純無機化速度は高標高で負の値を示し、窒素の不動化が進んでいた。不動化が進む高標高では、純無機化速度は培養後の土壌の微生物バイオマスあたりの土壌呼吸速度(微生物の呼吸効率)と負の相関を示した。一方、純無機化速度が正の標高では、微生物の呼吸効率は純無機化速度と正の相関を示した。従って、微生物の呼吸効率は窒素の可給性に応じて変化し、窒素不足の高標高地点では微生物は窒素獲得のために、より多くのエネルギーを消費し分解を促進させていると考えられる。さらに、土壌やリターのC/Nと無機化速度には負の相関が見られた。屋久島の土壌有機物や微生物相は標高傾度に沿って分化した植生から強い影響を受けており、標高傾度に沿って固有の生態系が発達している可能性が示唆された。


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