| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-199 (Poster presentation)
森林は通常、窒素が不足した状態にある。NO3-は森林流出水中の主な窒素化合物であるが、窒素不足の状態では森林からNO3-が多量に流出することはない。しかし近年では、人為起源の窒素降下量の増大により森林に過剰の窒素が供給されており、渓流水中にNO3-が流出する窒素飽和が問題となっている。そこで本研究では、近畿地方における窒素飽和の現状を把握することを目的として、近畿地方の渓流の人為的影響のない地点において採水を行い、渓流水中NO3-濃度とその窒素・酸素安定同位体比(δ15N, δ18O)を測定した。NO3-のδ18O値については、大気由来のもので高く硝化由来のもので低いことが分かっているので、渓流水中NO3-のδ18O値から、大気由来のNO3-がそのまま流出しているのか、硝化により生成されたNO3-が流出しているのかを判別することができる。また、GISを用いて、NO3-濃度に影響を及ぼす要因のひとつである集水域の地形の解析を行った。
NO3-濃度から、大阪市街の東側にある生駒方面で窒素飽和に至っていることが、またNO3-のδ18O値から、どの地域においても渓流水中のNO3-は土壌中で生成されたものであることが示唆された。各採水地点における集水域の面積と傾斜には、NO3-濃度、δ18O値との関係はみられなかった。これらのことから、今回調査を行った地域の森林では、土壌が窒素保持機能を有してはいるものの、森林生態系内に過剰の可給態窒素が存在するために渓流水に多量のNO3-が流出している場合があると考えられた。さらに、窒素降下量の多い地域と渓流水中NO3-濃度の高い地域に対応がみられたことから、窒素降下量が渓流水のNO3-濃度に大きな影響を及ぼしていると推察された。