| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-037 (Poster presentation)

海峡の歴史と現在の海流がハマナスの遺伝的構造に残した痕跡

*永光輝義(森林総研・遺伝)

種子が海流散布される海浜植物の遺伝的構造は、海域の分断や海流の方向によって影響を受けやすい。海浜植物の広範な散布能力は構造を弱めるが、定着や生育の環境の制限が構造を強めることもありうる。本研究は、北海道と本州北部の195地点の海岸砂丘に自生するハマナス(バラ科バラ属)の遺伝的構造に対して、過去の海水準変動による海域の分断と現在の海流の方向による解釈を試みた。宗谷海峡は氷期に陸化したが、津軽海峡はほとんど陸化しなかった。現在、両海峡では西への海流が、日本海では北上、オホーツク海と太平洋では南下する海流が卓越する。葉緑体ゲノムの1領域の単純反復配列には625個体の間に弱い地理的変異があり、オホーツク海側で頻度が高いタイプがみられた。一方、核ゲノムの10座位の単純反復配列における1190個体の遺伝子型にほとんど遺伝的構造はみられず、単一の任意交配集団とみなされた。また、これらの個体を、オホーツク海側、北海道と本州のそれぞれ日本海側と太平洋側の5つの集団に分け、それらの集団サイズとそれらの間の移住数を推定した。すると、集団サイズに大きな差はなく、北海道太平洋側から周囲への移住と北海道日本海側から本州太平洋側への移住が多かった。これらの結果は、1)広範な海流散布による遺伝的構造の均質化;2)氷期の海域分断の遺伝的痕跡の消失;2)海流と移住の方向の一部における不一致を示唆する。したがって、ハマナスの遺伝的構造は弱く、海域の分断や海流の方向によって解釈することは難しい。


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