| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-039 (Poster presentation)
植物のトライコーム(葉や茎に生える毛)の多型は,さまざまな種で知られているが,シロイヌナズナ属ではトライコーム変異をもたらす主要な遺伝子GL1が同定され,GL1が不機能型になるとトライコームの形成能力が失われることが示されている.本研究では、シロイヌナズナ属の異質倍数体植物ミヤマハタザオ(Arabidopsis kamchatica subsp. kamchatica)を対象に,野外集団におけるトライコーム多型をもたらす遺伝変異を遺伝子の重複性を考慮して解明しようと試みた.ミヤマハタザオにおいても,トライコーム多型は主にGL1遺伝子の変異に起因すると考えられるが,異質倍数体であるミヤマハタザオでは、異なる交雑親に由来する相同遺伝子(ホメオログ)を重複して持つことによって,表現型の遺伝的基盤が複雑化している可能性がある.有毛型または無毛型のどちらかが卓越する近接2集団から,GL1ホメオログを単離し,塩基配列を決定したところ,交雑親種A. lyrata由来のGL1ホメオログから機能型と不機能型が1タイプずつ,交雑親種A. halleri由来のGL1ホメオログから機能型と不機能型が1タイプずつ検出された.そしてトライコーム変異には,両親種に由来する2つのGL1ホメオログの相乗効果を示すパターンが認められた.またA. lyrata由来のGL1ホメオログは各集団で遺伝子型が固定していたが,A. halleri由来のGL1ホメオログは非対称的な遺伝子流動を示唆する空間分布パターンが認められた.今後、対象集団のトライコーム多型が中立的または適応的変異なのかを慎重に検討していく必要がある.