| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-040 (Poster presentation)
アカマツは主に尾根上に優占して生育するため,景観スケールにおけるその集団の分布はしばしば断続的である。したがって,アカマツの特定の集団における遺伝的変異は,集団内での個体間の遺伝的交流と他の近接集団との交流の双方により保たれていると考えられる。近年アカマツは,マツ材線虫病被害の進行により各地域集団において集団サイズの減少が顕著なことから,その遺伝的保全に最低限必要な,(ある範囲内での)近接する集団数や集団毎の個体数等の管理が急務である。本研究では,福島県いわき市の生息域内保存林内に近接して生育し,集団サイズの異なるアカマツ9天然集団を対象として,各集団の成木個体および2回の繁殖イベントで生産された自然散布種子のSSR分析を行い,成木と種子の遺伝的関係が集団間でどのように異なるかについて解析した。
針葉樹種子の雌性配偶体(雌親由来の半数体組織)を利用した遺伝解析手法により雌雄の配偶子を正確に区別して解析し,成木・種子(配偶子)各ステージにおける集団間の遺伝的変異や各集団におけるステージ間での遺伝的変異を評価した。
9集団間で成木個体数には75~525と違いが認められたものの,成木や種子の雄性配偶子の遺伝的多様性との間には相関関係は見られなかった。その一方で,種子の雌性配偶子の遺伝的多様性は,成木個体数が200以下の小集団で低い傾向が見られた。また,成木と雌性配偶子の間の遺伝的分化度は,小集団で高くなる傾向が見られた。このことから,小集団では主に雌親として寄与する成木個体数の不足等により,次世代の配偶子ベースでの遺伝的多様性の低下や遺伝的組成の偏りがもたらされる可能性が考えられた。