| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-043 (Poster presentation)

過去に炭焼きが行われた落葉広葉樹二次林における希少種ヤエガワカンバの分布

*大津千晶, 長池卓男(山梨県森林研)

ヤエガワカンバ(Betula davurica)は本州中部および北海道の一部にのみ分布する希少な高木性の木本種であり、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種に指定されている。山梨県では一部地域でヤエガワカンバの分布が認められ、そのほとんどが過去に薪炭林として利用されていた二次林内にみられる。そのため、過去の土地利用がヤエガワカンバの現在の分布に影響している可能性があるが、それを評価した事例はみられない。本研究では過去に炭焼きが行われた二次林を対象として、過去の炭焼き行為がヤエガワカンバの分布に与える影響を評価した。

調査は山梨県中北部の山地帯に位置する落葉広葉樹二次林で実施した。2.5×2.0kmの範囲を250×250mのメッシュに区切り、メッシュの中央部に20×20mの調査プロットを計68個設置した。プロット内では高木層の出現種を記録した。同時に、近年の炭焼きおよび山火事の発生履歴の指標として、プロット内の土壌のうちA0層に含まれる木炭を採取し、重量を測定した。また、調査範囲内を踏査し、炭焼き窯跡の位置を記録した。高木層構成種の在・不在データを用いて、一般化線形混合モデルにより各種の在・不在に及ぼす地形、土壌中の木炭量、炭焼き窯跡からの距離の影響を推定した。

調査プロットの93%から木炭が出土した。そのため、対象の二次林では広域的に炭焼きが行われたか、山火事が発生したことがあると推測される。一方、ヤエガワカンバは調査プロットの49%に出現し、その分布は傾斜角度の緩い、炭焼き窯跡から近い場所に集中する傾向にあった。ヤエガワカンバの立木は火に対して耐性をもつとされるため、山火事が現在よりも広範囲に多数発生していた過去には、より広域に分布していた可能性がある。しかし、山火事の抑制後は炭焼きによる伐採行為がヤエガワカンバの個体群の存続に寄与してきた可能性が示唆された。


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