| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-048 (Poster presentation)
森林のもつ公益的機能の多面性が重要視されていることに伴い,近年,広葉樹の植林事例が増加傾向にある。適切な種苗管理を行うに当たっては,適応的形質の地理変異に関する情報の集積が重要である。本研究では,形態や生理的形質等の研究例の多いブナを対象として,環境の異なる複数の試験地を用いた産地試験データによって葉形態の地理変異の実態を把握することを目的とした。調査対象は,北海道から九州に至る9産地から採種・育苗され,山梨県南都留郡山中湖村に位置する東京大学富士癒しの森研究所(以下,富士)に設定された産地試験地に植栽されたブナ86個体である。当年枝の成長が停止した7月に,各植栽個体の日当たりの良い樹冠表面のシュートを無作為に10~15本採取した。各シュートの先端から4枚目の葉について,葉面積,葉身長および形状比(長さ/幅)を測定し,北海道富良野市に位置する東京大学北海道演習林(以下,富良野)において同様の基準で過去に採取された共通の産地由来の植栽個体のデータと比較することで,環境と産地の効果を評価した。産地間で比較すると,いずれの試験地でも葉面積と葉身長は高緯度産ほど大きい傾向があった。また,同一産地の葉面積や葉身長を試験地間で比較すると,ほとんど産地で同等であった。以上のことから,葉のサイズは遺伝効果が大きく,環境の効果が小さいことが示された。一方,葉身の形状比は,富良野ではほとんど産地間差がないのに対し,富士では低緯度産の葉が細長くなる傾向が認められた。今後,葉緑体DNAの塩基多型の情報に基づく遺伝的系統の効果も加えて,葉のサイズや形状の適応的な意義について議論したい。