| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-124 (Poster presentation)

日本列島におけるチョウ類の分布に関する縄文時代以降の人間活動の影響

*斎藤昌幸(東大・総合文化), 深澤圭太, 石濱史子(国環研), 矢後勝也(東大・総合博), 神保宇嗣(国立科博), 倉島 治, 伊藤元己(東大・総合文化)

人間は古くから薪炭利用などによって、二次的な植生環境を生み出してきた。こうした過去の人間活動は、現在の生物の分布パターンに関係している可能性がある。本研究では、多くの種が植食性であり里山との関係も指摘されているチョウ類を対象として、縄文時代以降の人間活動が分布パターンに与えた影響について明らかにする。

チョウ類の分布データとして、環境省第5回自然環境保全基礎調査による1993年以降の分布記録(解像度:2次メッシュ)を使用した。この中から20メッシュ以上の分布記録を得られた土着種179種を解析対象とした。人間活動の歴史の指標として、奈良文化財研究所遺跡データベースによる縄文以降の各時代における居住地・窯業・製鉄の遺跡密度を使用した。この遺跡密度に加えて気候、地形、現在の土地利用から種ごとの分布を説明する条件付自己回帰モデルを構築し、人間活動の歴史の影響を定量化した。

解析の結果、縄文時代の居住地遺跡密度は48種のチョウの分布に対して有意な正の効果を示した。また、中世および近世の窯業遺跡密度はそれぞれ28種、45種、同様に中世および近世の製鉄遺跡密度はそれぞれ24種、30種のチョウの分布に対して有意な負の効果を示した。このような効果は、気候や地形、現在の土地利用を考慮しても検出されたため、過去の人間活動の重要性を示すとともに、人間活動の時代と形態がそれぞれチョウの分布に対して異なる影響をもつことを示唆しているかもしれない。

今後、遺跡密度の効果の大きさと種特性の関係を解析することによって、人間活動の歴史の影響をより強く反映しているチョウの特徴について明らかにする予定である。


日本生態学会