| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA2-218 (Poster presentation)
生態系の炭素循環において、土壌から発生する二酸化炭素は土壌呼吸と呼ばれ、光合成の次に大きな炭素の流れである。一般に森林の土壌呼吸の発生源には土壌中の微生物や植物の根などが挙げられ、これらの分布や活動の変化が土壌呼吸に空間変動や経時変動などをもたらしている。さらに熱帯林の場合、土壌中に生息するアリやシロアリ等の土壌動物が、生態系改変者として土壌呼吸に関わっている可能性がある。そこで著者らは、タイの熱帯季節林とマレーシアの熱帯多雨林において土壌呼吸の時空間変動と土壌中のアリ類との関係を求めた。実験は2009年から2012年にかけて東北タイの熱帯季節林とマレーシア、サラワク州の熱帯多雨林で行った。これらの試験地に設置した5-20mのラインに沿って土壌呼吸を測定した後、深さ30cmまで土壌を採取してアリとシロアリの個体数とバイオマスを計測した。タイのデータについては降雨量の変化がもたらす影響を避けるため、5つの測定期間毎に分けて解析した。しかし熱帯雨林では全てのデータを併せて解析した。タイの熱帯季節林では、土壌呼吸は0.4 - 22.2 μmol m-2 s-1の範囲にあり、5つの期間の変動係数は47~59%であった。乾季の2期間において土壌呼吸とアリの個体数またはバイオマスとの間に弱い正の相関関係が認められた。マレーシアの熱帯多雨林では、土壌呼吸は0.5 - 21.4μmol m-2 s-1の範囲にあり、変動係数は53%であった。ここでも土壌呼吸はアリの個体数及びバイオマスの増加と共に増加し、さらにシロアリのバイオマスとの間にも弱い正の相関関係が認められた。よってこれらの結果から、土壌中のアリ類の分布や活動が熱帯林の土壌呼吸の変動要因の一つであることが示唆された。