| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-057 (Poster presentation)
シカ類が高密度化すると生息地の嗜好植物が消失して不嗜好植物が残存し、それに依存するシカ類は密度依存的な餌資源制限によって小型化することが知られている。しかし、このような低質な餌に依存するシカ類の生活史特性については十分に調査されてこなかった。そこで本研究では、栃木県奥日光・足尾という餌資源の質・量が対照的な二地域に生息するニホンジカを対象に、体サイズや繁殖、生存といった生活史特性の地域間比較を行った。奥日光では高質(窒素含量が高く、繊維含量が低い)な餌であるササが生育するが、過採食によってその量は抑えられている。一方の足尾では低質な餌であるススキが、奥日光のササに比べて大量に生育している。両地域では1995年から間引きと、捕獲個体の齢査定や妊娠確認、体サイズの計測が行われている。1995年の捕獲個体の体サイズを地域間で比べると、奥日光のほうが体重、後足長ともに大きかった。また、捕獲個体の年齢と妊娠率から1994年時点での齢別個体数を算出し、ここから定常生命表を作成した。これを地域間で比較したところ、足尾の個体群は奥日光に比べて密度が高く妊娠率が低いにも関わらず、生存率は高く期待余命が長かった。また、幼獣と一歳について1994~2012年の齢別個体数を復元したところ、幼獣の生存率も、同じシカ密度の条件下では足尾の方が高かった。以上から、ニホンジカは低質な餌の利用することで成長や繁殖が抑制される一方、生存率は抑制されず、むしろ寿命が延びるという生活史特性の変化が生じることが明らかとなった。そのため、一度高密度化したニホンジカ個体群は生息地の高質な餌を食べ尽くしても、残存する低質な餌を代替的に利用することで生存率を高く保ち、個体数を維持し続けることが予想される。