| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-058 (Poster presentation)
牧草地は,ニホンジカ(以下,シカ)による食害を受けるだけでなく,シカの増加原因の一つとも指摘されているが,牧草地へのシカ侵入頻度を定量的に評価した研究は少ない。そこで本研究では,シカ侵入防止柵(以下,シカ柵)の設置状況が異なる複数の牧草地においてシカの侵入頻度と牧草の被害程度を明らかにすることを目的とした。
調査地として八ヶ岳南東山麓の牧草地6箇所を選定した。うち2箇所にはシカ柵がなく,2箇所には牧草地を囲む「個別柵」が,残る2箇所には他の牧草地や畑地,集落等を囲む「集落包囲柵」が設置されていた。2014年5月から10月に各牧草地および隣接する森林において糞粒数調査とカメラトラップ調査を3週間間隔で行った。また,シカ柵の設置状況が異なる3箇所の牧草地において牧草の刈取り調査を行った。
糞粒数調査で計2,857個の新しい糞粒が確認され,柵なし>個別柵>集落包囲柵の順で多かった。柵なしと集落包囲柵では森林側よりも牧草地側で糞が多かったのに対して,個別柵では牧草地側より森林側で糞が多かった。カメラトラップでは延べ126カメラ日で合計30,952頭が撮影され,糞粒数と同様に,柵なし>個別柵>集落包囲柵の順で多かった。糞粒数と異なり,個別柵においても森林側より牧草地側において撮影個体数が多かったが,シカ柵のないところよりは差は小さかった。刈取り調査では,シカ柵のない牧草地でのみ明らかな被害が見出され,そこでの減収率は約35%と推定された。
以上の結果から,牧草地は収穫量に影響するほどシカに侵入されていることや,個別柵には一定の侵入防止効果があることが明らかとなった。集落包囲柵で侵入が少なかったのは,柵の効果というよりは拠点となる山林から離れていたためと考えられる。