| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-060 (Poster presentation)

エゾシカ個体群の遺伝的空間構造の境界は障壁によってつくられるのか、距離による隔離なのか?

*三澤桃, 欧巍, 山田敏也(北大・環境科学院), 齊藤隆(北大・FSC), 宇野裕之(道総研・環境科学研究センター)

エゾシカ個体群の遺伝的空間構造は大きく南北に分かれることが分かっている。しかし、この分集団構造が境界を境に分断的であるのか、それとも連続的であるのかは明らかにされていない。そこで本研究では、先行研究で明らかになったエゾシカ個体群の遺伝的空間構造に見られた境界が、どのような要因によってつくられるのかを明らかにすることを目的とした。

考えられる仮説として、(1)先行研究では発見できなかった何かしらの障壁が存在し、それが境界となった、(2)エゾシカ個体群内で、個体間の遺伝的分化が地理的距離にともなって大きくなるという、距離による隔離が起こっており、見かけ上として境界が見られた、という2つがある。個体間の遺伝的な近さと地理的距離との関係において、同じ地理的距離を持つ個体ペアを比較したときに、境界をまぐペア(分集団間の個体ペア)では、そうでないペア(分集団内の個体ペア)よりも遺伝的な近さが有意に小さくなった場合は仮説(1)が、境界をまたぐ、またがないに関わらず似たような遺伝的近さを示した場合、仮説(2)が支持される。個体間の遺伝的近さの指標であるkinship coefficientを算出し、地理的距離との関係を調べた結果、境界をまたぐペアでは、そうでないペアよりもkinship coefficientが有意に小さいことがわかった。従って、エゾシカ個体群の分集団は分断的であり、本研究における仮説(1)が支持された。エゾシカ個体群の分断化の要因となるものには、道路や河川などが考えられ、今後の課題として、道路や河川、山などの地理的な情報に加え、エゾシカの行動に関わる詳細な情報を得る必要がある。


日本生態学会