| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-069 (Poster presentation)
有蹄類における個体群管理では、密度に敏感に反応する生活史特性の変化を把握することが重要である。特に、体重や体サイズは密度の影響が表れやすいため生態的指標として広く用いられているが、コホート効果や性・齢クラス間で密度に対する感受性が異なるため、データの解釈には十分な注意が必要である。しかし、コホート効果および密度効果が生活史特性にもたらす影響を、同一個体群を対象に長期モニタリングデータに基づいて検証した事例は乏しい。
そこで本研究では、エゾシカ個体群の長期的モニタリングが行われてきた知床半島において、密度増加の歴史と程度が異なる3地域(高、中、低密度歴地域)での性・齢クラスによる体重や後足長の時系列的変化を検証した。
体重は、長期的な影響(コホート順での変化)を検討した場合と比較して、短期的な影響(捕獲年順での変化)を検討した場合に、より明確な減少傾向が認められた。短期的な影響を検討した場合では、低密度歴地域と中密度歴地域の全ての性・齢クラスで減少が確認された。後足長は長期的な影響を検討した場合 に、低密度歴地域の成獣オスと成獣メス、高密度歴地域の幼獣を除いて、縮小が確認された。また、全ての地域で成獣オスと成獣メスとを比較すると、成獣オスの方が鋭敏な反応性を示した。
知床半島は密度増加に伴い、低密度歴地域の幼獣においても体重減少が認められ、幼獣から成獣、オスからメス、体重減少から後足長縮小、の順に反応が現われていた。高密度歴地域においては成獣メスの後足長縮小にまで至っていた。以上より、感受性の異なる生態的指標をモニタリングし、長期・短期の影響を正しく解釈することで、個体群の状態をより正確に評価できると考えられる。