| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-078 (Poster presentation)
キタキチョウは季節多型を示す蝶の一種で、越冬しない夏型と越冬する秋型があり、幼虫期の日長と温度が季節型を決めることが明らかにされてきた。ところが、日長や温度に対する反応に雌雄差があるため、関東地方では、10月になると夏型雌は消え、11月にかけては夏型雄と秋型雄、秋型雌の混棲状態となっている。この時、秋型雄の交尾活性は低く、夏型雄の交尾活性は高い。その結果、秋型雌のほとんどは夏型雄と交尾している。しかし、秋型雌は、越冬後に秋型雄と再び交尾してから産卵するのが普通である。調査は、筑波山系の麓の里山環境で、越冬前の10~11月と越冬後の3~5月に、標識再捕獲法を用いてのべ28日間実施した。再捕獲率は高く、Jolly-Seber法により、越冬前の日あたり推定個体数の最大値は、夏型雄が37頭、秋型雄が189頭、秋型雌が220頭と計算された。一方、越冬後、秋型雄の日あたり推定個体数の最大値は61頭、秋型雌は90頭だったので、越冬中の生存率は秋型雌の方が、秋型雄よりも高いといえる。越冬後の日あたり生存率は、秋型雌の方が秋型雄より有意に高く、秋型雄の寿命の短いことが示唆された。捕獲場所を検討すると、越冬前は、どの型の個体も林縁部に集中しており、越冬後の3月~4月前半は林内、寄主植物のメドハギが芽吹く4月後半以降は林縁部が主要な生活場所であることがわかった。越冬前の日あたり移動距離は、夏型雄で51m、秋型雄で59mだったのに対し、秋型雌では11mと短かった。越冬後の日当たり移動距離は、秋型雄で53m、秋型雌で26mだった。越冬中の秋型雌の生存率が高かったのは、越冬前交尾によって栄養価の高い精包を得たためかもしれない。越冬後の秋型雄の移動距離が長く、生存率が低いのは、雌の探索と精包生産のコストによるものと考えられた。