| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-093 (Poster presentation)
行動形質には一般に個体間で大きな変異があるが、固定的な遺伝の影響が強いのか、育ってきた環境による表現型可塑性が大きいのかは興味深い問題である。動物では活動性の低い臆病な個体は捕食されにくいことから、活動性は対捕食者形質である。一方、活動性の低下は採餌効率を減少させることから、活動性の低下にはコストがある。従って、捕食者密度が高いときには活動性を低下させるような表現型の可塑性があることが予想される。そこで、フナ類(Carassius auratus sspp.)の活動性に着目し、遺伝と環境(捕食者)の影響を調べた。フナ類の自然個体群には無性型が存在しており、複数のクローン系列を用いた反応基準解析から形質変異の遺伝と環境の影響を定量的に測定することができる。生息地の異なる複数のクローン系統に産卵をさせ、遺伝的に同一な姉妹からなる稚魚のストックを作出し、捕食者(ナマズ; Silurus asotus)のいる水槽といない水槽とに分け1年間飼育した。ナマズはフナと別の区画におり、フナを捕食することはできない。この処理の直後、および、捕食者を除去してさらに1ヶ月飼育した後の二つの異なる時期に行動観察の実験を行った。実験では迷路状の水槽内にフナを導入し、活動性を一定時間ビデオに録画した。分散分析(線形混合効果モデル)によれば、いずれの時期でも捕食者の存在下で育った個体の活動性は有意に低かった。 また、系統の影響も大きく、有意であった。捕食者を除いて十分時間の経った後でも捕食者にさらされて育った個体の活動性が低いことは、いったん形成された行動形質が不可逆的であることを意味し、捕食者環境が魚の個性(行動戦略)の形成に影響を与えたことを示唆している。