| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-095 (Poster presentation)
一部の魚類では、1箇所に複数の雌雄が群れて不特定多数の相手と多数の交配を行う。こうした乱婚の配偶様式では、卵の受精には水流や個体間の位置関係が強く影響するため、配偶者選択は行われず、受動的な配偶システムといえる。
本研究の対象生物であるヤツメウナギは、時に数十個体の雌雄が産卵床を造成し多数の交配を行う。乱婚を行う生物では珍しく、両性による協力的な造巣(石運び)や多数の擬似産卵・メスの交配拒否などの多様な繁殖行動を行う。造巣は配偶者選択の指標として、また擬似産卵・交配拒否はメスの交配操作を可能とするが、個体間で形態形質の違いが乏しく、複数個体が入り乱れる状況で能動的な交配が行なわれているかは不明である。本研究では交配前のオスの石運び数に着目し、ヤツメウナギのメスが配偶者選択しているかを明らかにすることを目的にした。
2012年5月に北海道大学苫小牧研究林内の実験水槽を用いて行動観察を行った。実験には個体識別をしたシベリアヤツメの雌雄15匹ずつを用いた。造巣の為に運んだ石の数と交配行動の回数、交配相手をビデオ撮影により記録した。
全交配行動は852回(メスの拒否:182回、擬似産卵:577回、放卵:93回)、石運びは3668回であった。解析の結果、交配前の石運びが少ないとメスの交配拒否が多く、石運びが多いと放卵が多く行なることがわかった。またオスは体サイズが大きいほど交配を拒否される傾向にあった。このことから、メスは交配前のオスの行動や形態を認識し、交配を操作している可能性がある。乱婚における配偶者選択の例は珍しく、本システムは遺伝的多様性の増加や遺伝的適合性などメスの複婚の適応的意義に対して新たな示唆を与えてくれるかもしれない。