| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB1-106 (Poster presentation)

シラホシコヤガにおける身にまとう被覆物を他個体から奪う行動と防衛行動

*西村啓(九大院・シス生・生態研),粕谷英一(九大・理・生物)

多くの動物において、過去の経験が次の争いの結果に影響することが知られている。その内容は、過去に勝利した経験をもつ個体は次の争いでも勝ちやすく、過去に敗れた経験をもつ個体は次でも負けやすい、という“勝ちぐせ・負けぐせ”である。シラホシコヤガの幼虫において、捕食者から身を守る被覆物を巡る争いで、その逆に、勝つ経験をすると負けやすくなるという可能性を調べた。

シラホシコヤガの幼虫は体表に地衣片をまとっており、体そのものは外からは見えない。地衣片をまとっていない裸の個体はまとっている個体と遭遇した際に相手の地衣片を奪おうとする。この地衣片の被覆物を身にまとうと幼虫にとっては、捕食者から身を守る利益がある一方で、運動能力を低下させるコストが生じている可能性がある。そのため、被覆物を身にまとっていない個体は争いで勝利することで被覆物を身にまとうほど、運動能力が低下し、争いで勝ちにくくなることが考えられる。

地衣片を身にまとった個体と身にまとっていない裸の個体を1つの容器内に入れて観察し、過去の経験がシラホシコヤガにおける身にまとう被覆物を奪う行動と防衛する行動および争いの結果に影響を与えるのか検証した。裸の個体は地衣片を奪うことに成功するほど、次の争いでは地衣片を奪う成功率が低下する傾向がみられた。また、裸の個体が地衣片を奪うことに成功するほど被覆した個体が抵抗する頻度が高くなり、それに加えて被覆個体が裸個体から地衣片を奪い返す割合が高くなった。これは争いにおける過去の経験の効果とは逆の結果であり、勝利して得た被覆物により個体の運動能力が低下して負けやすくなっていることを示唆している。


日本生態学会