| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-164 (Poster presentation)
野生動物管理の理論においてMSY(最大持続生産量)は最も一般的な管理目標の指標の一つとして知られている。例えば水産資源管理においては,資源を持続的に利用するために,MSYを実現させることを目標とすることが国連海洋法条約に明記されている。従って,MSYの値を正確に評価する事が重要であるが,一般的にその値は空間構造を持たない比較的単純な数理モデルから決定される。本研究では,MSYを導出するため伝統的に用いられてきた数理モデルを2個,あるいはn 個の異なる空間構造(パッチ)をもつ資源管理モデルに拡張し,それらのモデル上で評価されたMSYが,伝統的なモデルから得られるMSYの値からどの程度のずれを示すかを評価した。その結果,どちらの空間明示的なモデルにおいて得られたMSYよりも,伝統的なモデルのMSYの方が常に高い値を示すことがわかり,特に2パッチに拡張したモデルのMSYと比較すると,伝統的なモデルのMSYが2.85倍程度になる状況も見出された。この結果は,空間構造を考えていない既存のモデルでは,MSYの値を過大評価し,持続可能な資源利用を実現するための最適な(捕獲などの)努力量よりも強い付加を管理対象の個体群動態に与えている可能性を示唆する。また,実際の野外での管理において,伝統的な管理モデルを採用し空間構造を考慮しなかった場合,どの程度MSYの過大評価をするのかを簡単に見積もる方法に関しても議論する。