| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-172 (Poster presentation)
近年、各地で耕作放棄地が増加しており、もともと湿地であった耕作放棄地が減少した湿地性生物の代替生息地として機能することを期待されている。湿地性生物の生息に影響する要因として、耕作放棄地の面積、植生構造、周囲の景観構造が挙げられる。本研究では、湿地性鳥類を対象とし、各種の個体数とこれらの要因との関係を調査し、耕作放棄地の代替生息地としての機能を検証した。
北海道釧路地方を調査地とし、1.2~210 haの放棄地23パッチ、残存湿地3サイトにパッチ面積に応じた調査区(~5 ha)を設置した。各調査区を3回訪問し、調査区内の各鳥類種の個体数を求めた。解析には階層群集モデルを用い、放棄地パッチの一部分の調査区データから、パッチ全体の各種の個体数と共変量(パッチ面積、樹木密度、低木の被度、周囲300 mの湿地・草地率)との関係を推定した。さらに、放棄地パッチ全体の鳥類群集の個体数、種数の推定値を種レベルの結果から求め、残存湿地と比較した。
その結果、全ての種の個体数は周囲の湿地・草地率の上昇に伴って増加し、樹木密度、低木の被度については増加、減少が種ごとに異なった。群集の個体数は周囲の湿地・草地率の上昇に伴って増加し、樹木密度、低木の被度が中程度のパッチで最も少なかった。種数は低木の被度、周囲の湿地・草地率の上昇に伴って増加した。残存湿地と同数の個体数、種数を持つために必要な耕作放棄地の面積は、それぞれ湿地の約1.6倍、0.7倍であった。これらの結果は、湿地性鳥類の保全に効果的な耕作放棄地の選定には、個体数と種数の両方に正の影響を与える周囲の湿地・草地率が重要であることを示しており、個体数、種数のいずれかを基準とするかで考慮すべき環境要因が異なることを示唆する。