| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-177 (Poster presentation)
奄美大島では、低密度化したマングースの残存個体の分布や位置を特定するためにヘアトラップが実用化されている。マングースの獣毛を識別する基準として、毛長、1本の毛に2箇所のバンド(色が抜けた部分)、毛小皮の形状、毛髄比の種差が知られている。しかし、これらの基準は、主に背部の毛の特徴の種差によるため、ヘアトラップで背部以外の体毛が採れた場合、識別が困難であった。本研究では、全身の毛について、マングースと奄美大島に生息する他の哺乳類が識別できるか検討する。試料として、マングース4頭、アマミトゲネズミ2頭、ケナガネズミ2頭、クマネズミ2頭、およびイエネコ2頭の計12頭の各11部位から5本ずつ、合計660本の上毛を採取した。肉眼的に毛長、色彩、バンドの箇所数および膨大部の有無を観察した。スンプ標本では、毛根部および毛幹部の毛小皮の形状を観察した。透過封入標本では、毛幹部の髄質比を計測し、毛根部の黄色いシミの有無を観察した。体の各部位の毛長、毛小皮の形状および毛髄比には幅があり、それぞれの種の各部位の値や形状を総合すると、種別に明確に区分できるような境界値や形状はなかった。1本の毛に2箇所のバンドがある体毛はマングースのみで確認され、その出現率は背部の試料では90%以上と高かったが、全部位の試料では20%であった。黄色いシミもマングースのみで観察され、出現率は全部位の試料の51%で、特に下顎、前足、腹部で70%以上と高かった。1本に2箇所のバンドがある体毛と毛根部の黄色いシミがある体毛では、出現率が高い体の部位が異なり、両方の有無を確認すると識別率は69%であった。効率的な識別には、まず肉眼でバンドが2箇所ある体毛をマングースとし、残りについて透過標本を作製し黄色いシミの有無により識別するのがよいと考えられる。