| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB1-188 (Poster presentation)
カンムリカイツブリ(Podiceps cristatus)は主にユーラシア大陸中部以南で繁殖する魚食性の水鳥であるが、1972年に青森県小川原湖湖沼群で繁殖が日本で初確認され、現在では日本における繁殖域を拡大させている。カンムリカイツブリは抽水植物帯の多い溜池・湖沼を好んで繁殖するということが知られているが、溜池・湖沼の魚類相に関係した繁殖地選択の研究例は少ない。青森県津軽地方の屏風山と呼ばれる地域には溜池群が点在しており、カンムリカイツブリの繁殖地として利用されてきたが、抽水植物帯の顕著な減少が起きていないにもかかわらず、現在では繁殖地として利用されなくなった溜池がいくつか存在する。本研究ではカンムリカイツブリの繁殖地選択と溜池の魚類相との関係性を検討するため、屏風山とその周辺5箇所の溜池における魚類相とカンムリカイツブリの繁殖の有無、また過去の溜池の魚類相のデータとの比較を行った。
カンムリカイツブリの繁殖が行われている3箇所の溜池ではワカサギやギンブナなどの小型魚類が豊富に存在するが、繁殖が行われていない2箇所の溜池にはオオクチバス(Micropterus salmoides)が生息しており小型魚類は非常に少なかった。また、オオクチバスが生息する2箇所の溜池における過去の魚類相データを参照したところ、過去にはオオクチバスが生息しておらず小型魚類が豊富に存在し、カンムリカイツブリも繁殖していた。このことからオオクチバスが在来魚群集に負の影響を与えていると考えられる。カンムリカイツブリは育雛中溜池間の移動を行わないため、ヒナのエサは溜池中の魚類群集に依存している。オオクチバスは成長が早い魚であり、ヒナのエサとなるサイズの期間が短いと考えられる。そのため、エサとなる小型魚類の少ない、オオクチバスが存在する溜池ではカンムリカイツブリの繁殖が行われなくなるということが示唆された。