| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-126 (Poster presentation)

ムカゴサイシンの希少性は種子発芽特性がもたらしたか?

*木下晃彦(国立科博・植物園), 前田綾子(牧野植物園), 辻田有紀(佐賀大・農), Stephan W. Gale(Kad. Farm & Bot. Gard.), 山崎旬(玉川大・農), 遊川知久(国立科博・植物園)

ムカゴサイシン(Nervilia nipponica Makino)はラン科の多年生草本で、常緑広葉樹林やスギ林を主な生育地とするものの、僅かな自生地しか確認されていない。本種の保全にむけたこれまでの研究で、自生地の個体群はほとんど栄養繁殖で形成されていること、種子発芽率は人工培養下では高いが、自生地では極めて低いことが分かっており、種子発芽を制限する何らかの原因が、実生の新規加入を制約していることが示唆されている。ラン科植物は種子発芽の際に共生菌からの栄養供給が必須のため、発芽を誘導する菌を特定することが種子発芽特性の解明に必要である。そこで本研究では、本種の種子発芽を誘導する菌を特定し、希少性の原因について考察した。2008年から2013年に高知県と東京都の4ヶ所の自生地で、種子を入れた袋を有機物層の下部に設置した。乾燥による発芽率の低下が予想されたため、保湿処理を施した区画も設置した。発芽種子の共生菌は rDNA ITS領域を用いて同定した。設置した272袋のうち26袋から87個の発芽種子を確認した。保湿処理区では、未処理区に比べて発芽率が高かった。発芽種子43個を分子同定した結果、成熟期の主要な共生菌であり、系統的帰属および生態が不明の担子菌(菌X)が11個から検出され、他にエリマキツチグリ、イボタケ科などが検出された。菌X以外は成熟期には検出されていないことから、発芽には多様な菌が関与するものの成熟の過程で共生菌が選抜され、菌Xと共生する個体のみが生活環を完結できる可能性が高いことが判明した。このことから、本種が種子発芽以降に菌Xに高い特異性を有することが、希少性をもたらす要因の一つと考えられた。


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