| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-149 (Poster presentation)

丘陵地の里山にある大学農場の自然生態園の現状と課題

*野呂恵子,倉本 宣(明治大・農)

明治大学黒川農場は多摩丘陵の一角の神奈川県川崎市麻生区黒川の丘陵部に2012年春に完成した。農場内では造成によって平坦な地形に改変された中央部に圃場が位置し,周囲の雑木林は緑地として残された。このうち南東端には巾約100m奥行約300mほどの細長い範囲で「自然生態園」が設置され,一部が一般にも公開されている。

この場所は,工事以前はアズマネザサが密集し容易に立ち入ることができない場所であったが,工事に伴う伐採によって1本の小さな流れを中心とした平坦地と斜面を含む地形が現れ,その地形をもって丘陵地の生態系のミニチュア版として活かされることになった。「自然生態園」に関する工事は,当初は施工者側のみで,途中からは筆者らの保全の観点からの助言も取り入れ進行した。

「自然生態園」を丘陵地の里山の自然として維持し,また公開するには管理が欠かせない。しかし農場の運営開始以来2014年までの3年間,実質的には管理主体が定まらず,そのままでは管理がおこなわれない事態が生じた。そのため,2012年度前半は筆者らの研究室の学生をはじめとした管理,2012年度後半~2013年度までは企業ボランティアによる月1回の管理,2013~2014年度は地元農家団体に委託しての管理を研究室として実施し,2014年度は生田ボランティアセンターのプロジェクトでおこなった。しかし時間の経過とともに繁茂が進み,管理しきれない現状がある。

一方「自然生態園」は丘陵地の自然を残した部分であり,里山に生息する哺乳類や水生生物などを対象とした研究の場となり,また研究室の学生が交替で解説サインを作成して設置するなど,環境教育の場としても機能している。

今後も丘陵地の生きものの生育生息地としての機能を維持し,里山の生態系のミニチュア版として環境教育の場にも活かされるためには,調査研究の結果が維持管理に反映されるシステムを成立させることが急務である。


日本生態学会