| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-157 (Poster presentation)

過去の文献を自然再生に生かす-本州平野部の水辺植生の事例-

*山ノ内 崇志,西廣 淳(東邦大・理)

自然再生事業を行う上で,目標設定は重要な問題であり,堆積物,化石,標本,文献など,可能な限り多くの情報に基づいた目標の検討が望ましい.特に,日本の平野部の水辺環境は築堤,干拓,人為的な水位管理,水質汚濁による改変が著しく,現状のみに基づいて過去の環境を推定することが困難である.文献記録のうち,古い記載的な科学論文からは,それらの相互比較や現在の知見の適用により新たな解釈が得られるかもしれない.本研究では平野部湖沼の抽水植物帯を対象として,大幅に劣化する以前の記録が残されている宮城県伊豆沼,新潟県鎧潟,千葉県手賀沼,京都府巨椋池について,植生と立地条件の関係について推定を試みた.また,手賀沼および千葉県印旛沼の現状と比較した.

過去の一般的な傾向として,岸からヨシ帯-マコモ帯が配列し,ヒメガマが少ないかこれを欠くことが認められた.手賀沼での過去と現在との比較では,ヨシ帯-(ヒメガマ帯-)マコモ帯だった配列がヨシ帯(ヨシ・マコモ混生帯)-ヒメガマ帯に変化していた.また,現在のマコモの分布は浅水域に限られるが,過去の記録では水深1.5-2.0 mで浮稲のような生育型をとることが記録されていた.鎧潟と伊豆沼では,ヨシ帯-マコモ帯間または移行帯での攪乱地依存性の種の生育が記録されていた.この群落の成立要因は記述されていないが,仮説として波浪や浮氷の打ち付け,凍結・融解や水鳥の摂食活動などによる土壌攪乱が想定される.また,手賀沼では幅広い抽水植物帯(>100 m)の中に浮島が記録されており,同様な浮島は現在の印旛沼のヒメガマ帯(ca.80 m)でも確認された.文献を用いた過去の立地環境の推定には,精度や解釈の妥当性の点で限界がある.しかし,現状の観察だけでは得られない情報を含んでおり,研究の出発点として有効であると考えられた.


日本生態学会