| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-163 (Poster presentation)
全国各地の道路事業では、事業が地域の希少な動植物種や生態系に影響を及ぼすおそれがある場合には、影響の回避や低減、あるいは代償を目的とした環境保全措置を行い、自然環境に配慮した形で事業が進められている。これら環境保全措置の実施事例には、動植物の保全技術に関する貴重な知見を含んでいると考えられるが、これまでは現場ごとに環境保全措置検討のための調査を実施し、それらの調査データを現場内で蓄積するにとどまり、横断的な知見の整理や分析は行われてこなかった。そこで本研究では、影響予測や環境保全措置の技術向上を目指し、全国の道路事業に伴う環境調査や環境保全措置に関するデータを収集し、知見整理および分析を行うこととした。
本研究では、平成21年度から24年度の4年間に国土交通省が実施した全国の直轄道路事業のうち計179事業518件の生物調査報告書を収集し、実施事例の多い環境保全措置である“植物の移植”と“両生類の移設”に着目して知見の整理分析を行った。その結果、道路事業に付随して、309種の植物が移植されており、そのうち多年生草本が約7割を占めていた。なかには、菌根菌との共生関係から移植難易度が高いとされるキンラン属の移植とその後の活着事例もあり、種の生態的特徴を考慮した移植手法(例えば“コナラ等樹木‐菌根菌‐キンラン属の3者の共生関係”の構築手法)について、フィールドで適用可能な技術として共有・確立する必要性が示された。また、13種の両生類が移設されており、そのうち止水性サンショウウオ類が約9割を占めていた。一方で、植物・両生類ともに長期的な生息環境の保全のためには、事業者単独の努力のみでは不十分であり、地域と連携した取り組みの重要性が示唆された。