| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-167 (Poster presentation)
オオムラサキは我国を代表する里山の蝶であり、エノキを食樹に年1化の生活史で、冬季には根元の落葉下で越冬する性質を有する。近年、都市化に伴う生息地の分断や里山環境の改変により個体数が減少し各地で準絶滅危惧種に指定されている。オオムラサキと同様にエノキを繁殖木とするものの本種とは対照的に繁栄している蝶にゴマダラチョウがある。越冬場所を利用するこれらの2種の蝶が一方は普通種、一方は絶滅危惧種となっている理由について、撹乱等に対する耐性の違いが示唆されている。生駒山では2011年度から2013年度にかけてマイマイガの大発生が起こり山の木々の葉は丸坊主状態になったが、このような生態学上でのイベントは当然、オオムラサキとゴマダラチョウに影響を与え、そのインパクトは大型で年1化の前種より小型で年2化の後種の方が軽く、さらに回復も早いとが予想された。そこで本研究ではマイマイガの大発生後のオオムラサキとゴマダラチョウの越冬幼虫の個体群動態に違いについて、越冬環境、葉の餌としての適性と共に調査した。その結果、マイマイガ大発生後のエノキの葉は2種の幼虫の成長に適したもので、越冬環境も2種共に落葉の被度の高い場所を好む上に、マイマイガの大発生の前後で目立った変化は無かった。しかしながら、オオムラサキでは2011年から4年間個体数が減少し続けたのに対し、ゴマダラチョウでは2012年には減少したが翌年には増加した。繁殖木の割合も同様であった。これはマイマイガが幼虫である春期に幼虫である世代と冬期に越冬する世代の間に、オオムラサキが世代を挟まないのに対し、ゴマダラチョウは1~2世代を挟むためであると考えられる。何らかのインパクトに対するオオムラサキの個体数回復の遅さが本種を希少種としている一因であると考えられる。