| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-182 (Poster presentation)

ヒグマとサケを例とした、海洋ー陸域物質輸送の評価手法に関する研究

*松林順(京大・生態研セ),陀安一郎(地球研),野別貴博(知床財団)

海で成長し産卵のため母川へと回帰するサケ属魚類(Oncorhynchus spp.)とそれを捕食するヒグマ((Ursus arctos)による生物間相互作用は、海由来の栄養源(MDN)を陸域へと輸送する役割を果たす。既存研究より、北海道ではここ200年の間にヒグマとサケのつながりが大きく制限されたことが示されている。200年前は開発が本格化した時期と一致していることから、これには何らかの人為的な要因が影響していると考えられる。そこで、本研究ではヒグマの安定同位体食性分析と空間解析を組み合わせた手法により、人為的な土地開発がヒグマとサケのつながりに及ぼす影響の予測を行った。

本研究の対象地は知床半島である。対象地域内で1996年以降に捕獲されたヒグマ188個体を対象に、炭素・窒素・イオウの安定同位体比を測定し、Mixing Modelによりサケ利用割合を個体ごとに推定した。続いて、各個体の捕獲地点からサケ遡上河川までのコスト距離に基づいて、サケ利用割合の個体差を説明するLeast-Cost Model (LCM)を構築した。LCMでは、各土地利用(森林・河川・農地・道路)のコスト値も推定対象としている。

LCMの結果、サケ遡上河川までのコスト距離はサケ利用に対して負の影響を持っており、サケ利用の個体差を説明する上で最適な各土地利用の相対コスト値は、森林:1(参照値)、河川:29.53, 農地:2.62, 道路:45.97と見積もられた。従って、ヒグマの生息地からサケ遡上河川までの間に道路が存在すると、ヒグマのサケ利用が大きく阻害されることが予測される。また、サケの遡上を阻害する河川工作物の除去シミュレーションを行った結果、河川工作物の除去によって好適なサケ利用適地が最大で42%増加することが明らかになった。


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