| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-188 (Poster presentation)

粗朶の設置による河川水生生物相の変化について

*柳沢直(岐阜県立森林文化アカデミー)

粗朶は広葉樹の低木の幹や枝を束ねて作る工事資材である。粗朶は買い上げ価格が決まっており、近年経済的利用価値が減少した里山林において、数少ない現金収入を得る資源としての価値を持つ。粗朶は主に河川下流域の大規模な護岸工に使われるが、粗朶を用いた工事が用水路でも行われれば、農地と里山林を結ぶ循環型の里山利用が実現する。以上より本研究では、生物多様性に乏しいと批判されることの多い小規模な三面張り農業用水路に小さな粗朶を沈め、粗朶の生物凝集効果を検証した。

調査地は岐阜県旧糸貫町を中心とした5つの小河川である。同一河川上に長さ5mの調査区である対照区と粗朶区を設定し、サデ網とタモ網でそれぞれ10分間ずつ生物を採捕・同定し、同じ場所に放流した。その後粗朶区のみ粗朶を1束設置し、一週間後に同様の生物調査を行い、前後の生物相を比較した。本研究で使用した粗朶は、低木を長さ50cmに寸断し、直径20cmになるようビニール紐で縛ったものである。

設置した粗朶内には、事前調査では見られなかった10種の生物が新たに入り込んでいた。それらの多くがヨシノボリやモクズガニなど底生のものであった。もともと種数の少ない河川(粗朶設置前2種)では、粗朶設置後に粗朶区で生物種が8種に増加したのに対し、対照区では種数の増加が見られなかったことから、調査区に近接する部分から粗朶区内に生物が移動してきたと考えられる。一方で、もともとの種数がそれぞれ9種、11種と多い河川では、粗朶設置後の粗朶区の種数には変化が見られなかった。これは粗朶に入り込んだ生物が、もともと調査区内にいたものであったためと考えられる。また、粗朶設置後に11種中5種で個体数の著しい増加が見られた河川もあった。

粗朶には内部だけでなく周辺にも生物を集める効果が見られた。これは粗朶によって流れに淀みが生まれ、流速の緩やかな場所を好む生物にとって適した環境になったためと思われる。


日本生態学会