| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-190 (Poster presentation)

硝酸塩経口投与によるニホンジカ捕獲

*大場孝裕,大橋正孝,山田晋也(静岡県農技研・森林研セ),大竹正剛(静岡県畜技研・中小研セ)

ニホンジカ(以下,シカ)増加に伴う過度の摂食圧により,草本・低木層の植物が衰退し,高木層を形成する樹木が樹皮はぎにより衰弱・枯死することで,植生に偏向遷移が生じている.

シカ個体数削減のための捕獲が全国的に実施されているが,大局的には削減できておらず,一層の捕獲強化が必要な状況にある.一方,現行のシカの捕獲及びその強化が他の動物へ悪影響を及ぼすことも懸念される.例えば,銃の発砲や猟犬による追い立ては,生息地の安寧を乱す.また,足くくりわなは,適法に設置されていてもツキノワグマ等が錯誤捕獲され,動物の損傷も生じている.このため,効率的で安全性も高く,さらに環境にも配慮した新しい捕獲技術が望まれている.

シカなどの反芻動物は,硝酸イオンを摂取すると,第一胃の微生物が,これを亜硝酸イオンに還元する.亜硝酸イオンは血中で酸素運搬を担っているヘモグロビンと反応し,酸素運搬能力のないメトヘモグロビンに変える.進行すると酸素欠乏症に陥り,死に至る.人間など単胃動物の酸性の胃では,亜硝酸イオンは増加しない.

本研究では,シカ飼育個体の胃に硝酸イオンを注入し,致死量(NaNO3:0.8g/kg体重)を明らかにした.硝酸イオンは,土壌を含む自然界に広く存在し,植物等の窒素源として不可欠な安全性の高い物質である.給餌器等で硝酸塩添加飼料を与え,シカに致死量の硝酸イオンを摂食させる方法であれば,硝酸イオンの放出量は,自然環境へ影響を及ぼさない程度に留まる.

作製した硝酸塩添加飼料を摂食したシカ野生個体の捕獲(致死)にも成功した.反芻胃の中で生成される亜硝酸イオンは,反応によって変化するため,死亡個体の筋肉及び肝臓内の亜硝酸イオン濃度は検出限界以下であった.このことから,硝酸塩経口投与により致死したシカを他の動物が摂食しても,メトヘモグロビン血症になる恐れはないと考えられた.


日本生態学会