| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-192 (Poster presentation)
第一次産業の国際化と地方の人口減少により、日本の耕作放棄地は1990年代より増加の一途を辿っている。生物多様性保全や防災の観点からは、これらの耕作放棄地に自然を再生することが得策である。自然再生を成功に導く具体的な処方箋を用意する必要があるが、湿原域における耕作放棄地の自然再生に関する知見は数少ない。本研究では、日本で最も高い人口減少率が見込まれている北海道の道東地域で、休耕牧草地における湿原再生の可能性を検討した。標津川流域の営農中牧草地、休耕年数の異なる牧草地、ならびに当幌川流域に残された湿原において、地上植生と環境変量(地下水位、周辺の湿原植物群落面積)を調査した。また、同じ調査地から深度(0-5cm、5-10cm)の異なる土壌を採集し、水分条件(湿性、湛水)を変えて撒き出すことで、土壌シードバンク(SB)を調査した。営農停止後の地下水位上昇に伴い、休耕牧草地では湿生植物種が出現した。営農停止後25年が経過すると、湿原の種組成に似た植物群落へと遷移し、湿生植物種が優占したが、牧草種も残存した。休耕牧草地の土壌SBには、地上植生にはみられない湿原の構成種が存在したが、牧草種は欠落していた。深度の浅い土壌を湿性条件に置くことで最も多くの湿生植物が発芽したが、湛水条件でのみ発芽した希少種もあった。これらの結果より、明渠の埋戻しなどで地下水位の上昇を促進させる、表土の一部を撹拌する、掘削深度を変えて多様な地下水位条件を創出する、といった施工により、湿原のより早い再生が可能になると予想される。すなわち、これらの施工が、牧草種を早期に衰退させ、土壌SBから多様な湿生植物種の発生と成長を促すため、開拓前の種組成に近い湿原を再生できると考えられる。